花の流通について、基本的なことを解説してみようと思います。(ここでは、切花について解説します)
細かいことを言うと、ここで解説する方法以外にも、花の出回る経路は色々あるのですが、基本は下記のようになっていると考えてもらって、ほぼ大丈夫です。
花の流通を、ごくシンプルに書いてみると、以下のようになります。
〔1〕種苗会社
↓
〔2〕生産者
↓
〔3〕花市場
↓
(仲卸)
↓
〔4〕花屋
↓
〔5〕消費者
普通の、花屋でお客さんが花を買う行為が、最後の〔4〕→〔5〕の間の取引です。
〔5〕が〔2〕に行って直接買うとか、〔4〕が〔2〕から直接買うということもありますが、一番一般的な花の流通が、上記のものです。(仲卸は、必ずしも経由しないので、カッコ書きにしました)
最近は、輸入切花も多いので、輸入花についても書いてみますと、下記のようになります。
〔1〕種苗会社
↓
〔2〕外国の生産者
↓
〔3〕輸入業者
↓
〔4〕花市場
↓
(仲卸)
↓
〔5〕花屋
↓
〔6〕消費者
上の項で書いた「経路」に出てくる名称を、簡単に用語解説します。
文字通り、種や苗を作出する会社です。当サイトで、かつて紹介してきた種苗会社を挙げてみますと、以下のようなものがあります。
花卉業界の流行は、種苗会社が仕掛けていることが多々あり、一企業の戦略が、花産業の歴史を変えることもあります。
切花の栽培・生産をしている、個人や企業です。家族だけでやっている農家の場合もあれば、広大な農場を持った企業の場合もあります。また、上記の「種苗会社」が生産者を兼ねていることもあります。
生産者は、栽培した植物を、市場に出荷します(農協経由の場合もあり)。特殊な花材は、花屋が直接生産者から仕入れる場合もあります。
野菜もそうだと思いますが、花の生産者には、「優秀な生産者」と、「優秀ではない生産者」があり、後者の中には「こんなものを出荷して、恥ずかしくないのか!」と思うような品物を出してくるところもあります。
反対に、「優秀な生産者」には、業界の伝説になるような名品を生産するところがあり、バラの世界には「バラ名人」、ユリの世界には「ユリ名人」、アジサイの世界には「アジサイ名人」などと、称えられる人たちが存在します。
生産者から出荷された花を、花屋の仕入れが競りで買い入れする場のこと。大体、各都道府県に数箇所ずつ存在します。たとえば、東京都ならば、大田市場・足立市場・板橋市場などがあります。
競りは、現在はほとんどが「競り上がり」ではなく「競り下がり」方式で値段決定されます。もちろん、一番高い値段をつけた人が、その品物を買うことが出来ます。
市場の中で、「問屋」的な役割を持つ業者です。あまり大口仕入れの出来ない花屋は、競りには入らずに、主に仲卸から仕入れています。
具体例を出しますと、
たとえば、「バラを、50本だけ欲しい」と思っている花屋があるとすると、その花屋は、一口200本とか300本で取引される「競り」に入ると、「50本しか欲しくないのに、200本買わないといけない」ことになります。到底200本は捌けない店であれば、競りに入ると、みすみす150本分の損が出ることになってしまいます。
そんなときに、競りには入らずに、仲卸に行って、50本だけ買ってくるのです。この場合は、仲卸のつけた値段で買うことになります。(つまり、世の中のすべての花屋が「競り」に参加しているわけではないのです。)
また、注文品で、特殊な花を小口仕入れしたいときなどに、仲卸に注文を出して仕入れることもあります。仲卸では、「こういう大きさで、枝つきはこんな感じ、一本で嵩を出せるほうがいい」などと、比較的細かい注文を聞いてくれます。
市場の競りや、仲卸から仕入れた花を消費者に販売します。モノによっては、生産者と直接交渉で仕入れることもあります。
また、花屋同士で、仕入れたものを融通しあうこともあり、「枝物を、お稽古3杯分だけ必要」みたいなときに、枝物を多く仕入れた花屋仲間に交渉して、分けてもらうような仕入れ方もします。
上に書いたものは、花屋が消費者に売るタイプの流通経路ですが、一部の消費者は、市場や花屋を通さず、もっと直接的な取引で花を買うこともあります。
たとえば、生産者の元に出向いて直接買ったり、自ら花市場に入って買ったりする方法です。(花市場で買う方法は、こちらのコラムでも書いています→個人のフラワー講師の花材仕入れ方法)
花でなくてもそうですが、品物は、いろいろなところを経由すればするほどに中間マージンがかさんでいきますので、途中経路を飛ばすことができれば、それだけ安く買えます。
花の流通は、昔から何一つ変わらずに現在まで続いてきたわけではありません。
花市場の整備や、競り方式の変化、法律の改正など、色々なものが現在も変わっていっています。
特に、法律や、政策に関わるものは、流通を大きく変える可能性があります。たとえば、国際的な何かの取り決めがなされて、ある日を境に輸入花市場が様変わりしたり、政府が何かの規制を緩めたり、厳しくしたりする操作をした結果、花の業界地図が激変したりなどです。
状況が変われば、市場も取引方式も、その状況にふさわしく姿を変えるでしょう。現在の流通方式は、今だけのものなのです。
私は、昭和の50年代頃から花の流通をじっと見てきましたが(50年代は、まだ子どもでしたけど)、法律整備のおかげで、輸入花の市場がどんどん充実していったことと、中央卸売市場の整備で、花の取引量が跳ね上がったこと、取引が大口化したことは、大きな変化だったと実感しています。
競りのコンピューター化と、「競り下がり」がメジャーになったことなどは、そのたびに驚きをもって見ていました。
花を生ける者の立場から言うと、花市場の巨大化は、品物の個性を殺し、どんどん画一化へ進んできているように思え、その点には危機感を抱いています。
花の流通が、どんなに変わってしまおうとかまわないと思いますが、消費者により多くの選択肢を示し、より喜びを多く与えることができる、「適正で豊かな流通」が守られればいいと思います。