これは、熟練して、かつ恐ろしく余裕のあるいけばな人が使うものであり、素人が手出しできるものではありません。
管理人自身は、自分の流派に、このような花留めを使う風土がないので、ほぼ「別の世界のはなし」と思っています。
「使う風土がある流派」の人たちも、相当慣れないと使いこなせないのではないかと思います。また、本気の留めではなく、即興の曲留め(軽業的留め)の側面もあるかと思います。
そもそも、蟹とか亀が花留めにどう関係あるのか?といいますと、「置物」の話から始めることになります。
いけばなの古典流派の中には、「演出用置物」を使うところがあります。「演出用置物」とは、大抵、鉄や銅でできていて、蟹や、亀や、鶴、水鳥などを模っています。
使い方としては、水盤の縁に沢蟹や鷺の置物を置いて「水辺」の演出をしたり、花器の前や横に鶴亀を置いて、縁起ものとしての演出をしたりします。古典派の展覧会を見に行ったことがある人は、「そういえば、小さい亀が置いてあった!」などと思い当たる人がいるのではないでしょうか。
そのような「置物」を、花留めに流用する、ということがあります。
実際のところ、私はそうやって生けた実物は見たことがありません(展覧会では見かけません。安定させるのが難しいんでしょう)。いけばな書の、絵や写真でなら見たことがあります。
具体的に、どうやって花留めにするかというと、例えば蟹の置物なら、水盤の中に置いて蟹の足に植物をかませていくような方法になります。これは、それだけで植物を固定させるのも難しいですし、演出とマッチさせるのも難しいと思います。蟹を使うのであれば、蟹の演出が効いていなければ、何の意味もありません。「なぜ唐突に蟹!?」と違和感を持たれるようでは、作品として良いとは言えないはずです。
蟹だけでなく、亀や、その他の置物も花を留めることに使用するらしいのですが、おそらく、剣山が手元にあれば、わざわざ蟹亀を使うことはないのではないかと思います。興が乗って花を生けようというときに、剣山の準備が無い……じゃあそこにある亀の置物をちょっと拝借して生けさせてもらいましょう、というときの花留めなのだろうと思います。
花鋏の花留めというのは、更に特殊になり、実際に花をカットするのに使う鋏を花留めにするというものです。私は、古いいけばな書に載っていた絵でしか見たことがなく、現在、実際にこの方法で花を生ける人がいるかどうか怪しいと思っています。
蟹・亀・花鋏以外にも、変わり花留めはあります。
「変わり花留め」というよりも、曲留めと言うべきなのかもしれませんが、下記のようなものを使って花留めにすることがあります。
轡、扇、鍔、小刀、簪、石、小刀
要するに、何らかの「引っかかりどころ」となる物品を、身近なところから探したら、上記のようなものがあった、ということから使われたものではないかと思います。「仕方なく使った」というよりも、「それもまた面白し」「これも一つの風流」という心意気で使われたものかと推測します。(「酒の席の座興で」「風流人の集まりのノリで」、ということもあったかも)
上記の中で、比較的よく知られているのは、轡です。これは、古典流派では、今でも所有して使っている人がいるようです。
上記の中で、管理人自身が唯一使ったことがあるものは「石」です。砂利のような小石も、拳よりも大きいくらいの石も、どちらも花留めとして使ったことがあります。(似たようなものとしては、管理人のブログに、ビー玉を花留めに使っている画像があります→ビー玉)
生け花用置物を扱っているのは、生け花用品専門店のみです。専門店でも、扱っていない店もありますので、入手は容易ではありません。
しかし、生け花用置物が必要な人は、多分入手できる場所をすでに知っているでしょう。流派直営のお道具店のようなところでも買えるかもしれません。ネットで探すなら、「蟹花留め」などのキーワードはググるのが早道でしょう。ネットで少しでも安く買いたい人で、中古でもかまわない人は、現在ではオークションがおすすめです。(例→Yahoo!オークション 「亀 花留め」)
記事の冒頭に書いたように、全然簡単ではありません。使える人にとっては使えるもの、です。