はじめに明記しておきますが、管理人は刃物の専門家ではありません。花の専門家です。
花業界の人としては、半世紀近く花鋏は扱ってきましたので、その人間が、自分は手入れをこうしていますという記事です。刃物の専門知識が欲しい人や、自分で研ぐ方法を探している人のニーズには応えられません。
以上をご了承の上、お読みください。
一応、花鋏の持ち方の説明をしておきますが、不要な人は飛ばしてください。
管理人は、普段2種類の花鋏を使っています。花屋さん鋏と、わらび手のいけばな鋏の2種類なのですが、それぞれの持ち方は下のようになります。
↓いけばな鋏
わらび手の鋏には、指を入れる輪っかがありません。握り込むようにして持ちます。
手を開いたり握り込んだりして切ります。
わらび手の、もう一つの持ち方として、下のような方法がありますが、
人差し指の位置が違います。画像の中に赤字で書いているように、私はこの持ち方はやって来なかったので、できません。流派によっては、この持ち方を推奨するところもあるようです。
もう一種類の花鋏の方は、輪っかのある鋏です。現在、日本の花屋さんで最も多く導入されているものです。
この花鋏は、ハンドクリエーションといい、指をかけるくぼみが付いていることが特徴です。たまに、このくぼみを活用していない人がいますが、活用した方が圧倒的に手が楽です。というか、活用しないなら、この花鋏を使う意味がだいぶ無くなります。
実は、「手入れ」というほどの事はしていません。常識的な扱いをしているだけです。
必ずすることは、水気を取り、汚れを落とすために、使用後は新聞紙で刃を拭くことです。これは、完全に習慣化されているので、しようと思わなくても条件反射でやってしまいます。2種類の鋏の、どちらでも必ず行います。
たまに、刃がびしょびしょのまましまおうとする人がいますが、物を塗れたまましまうことがまずオカシイし、金属なんだから、塗れたままだと錆びると思うのが当たり前ではないでしょうか。
下の画像は、某花の教室で、ずっと拭いてもらえなかった花鋏です。こんな有様になってしまいます。
汚れについては、私は新聞紙で拭いて、落ちるものだけ落とします。面倒だな、大変だなと思うほどの作業はしません。
でもたまに、突然「よし、きれいにしてやろう」と思い立って、徹底的にきれいにすることはありますが、気まぐれにやるだけで、定期的にやったりはしません。(突如やる気になって部屋の大掃除を始めるような感じです)
本気で汚れを落とそうと思ったら、刃物クリーナーで掃除することもできます。
しかし、私は今まで自分でお金を出して刃物クリーナーを買おうと思ったことがありません。サンプルを貰って使ったことはあり、役に立つことは知っているのですが、今のところ個人的には買わなくてもいいかなあと思っています。使うか使わないかは、個人の見識で良いのではないでしょうか。
もし、花鋏をしばらく使わないなら、刃を油紙に入れておくと良いです。油紙は、鋏を買ったときや、研ぎから返ってきたときに付いています(下の画像参照)。それを捨てずに取っておいて、活用します。
油紙に入れても、刃がびしょびしょであれば、やはり錆びますので、収納前には水気は拭きとります。
油紙を捨ててしまっていたら、そのときは油紙無しで保存してください。これだけ売っているようなものでもありません。
私は、いけばな鋏の研ぎを、業者に任せてしまいます。記事の冒頭で、「自分で研ぐ方法を探している人のニーズには応えられない」と書いているのはそのためです。
自分で研ごうと思ったことが無いわけではなく、こんなものも持っていたりします。砥石はハードルが高くて、手が出ませんでした。砥石で研ぐのは、ある程度経験を積み重ねて培ったスキルが必要です。そのスキルを手に入れたとしても、私ごときの研ぎなど、プロの仕事とはきっと雲泥の差なのです。そう思ったら、頑張れませんでした。
そんなことを考えてるうちに、やがてプロになって、高級と言って良い花鋏を使うようになってしまったので、もう専門家に研いでもらう以外の選択肢がなくなりました(素人が研いで台無しにしたくない鋏を使うようになったので)。
私は、「切れなくなった」「そろそろ研ぎどきかも」と思ってから、研ぎに出します。私が研ぎに使っているのは、華道具屋です。もし、華道具屋以外の場所で研ぐのであれば、自分の流派の鋏研ぎサービスを使うか、鋏のメーカーに送ることになると思います。
花屋さん鋏=ハンドクリエーションの方は、研ぎません。私はこれを、相当酷使するので、そもそも長く使おうと思っていません。ワイヤーは切るわ、乾いてコチコチになった枝を切るわで、使い倒します。使って使って、切れ味の劣化がストレスになると、次の鋏に乗り換えます。
花屋さん鋏=ハンドクリエーションの方は、上の項に書いたように、「散々使って、性能がストレスを感じるほど劣化したら捨てる」ことにしています。
いけばな鋏の方は、切れ味が悪くなったら研ぎに出すことを繰り返していると、最終的に研ぎ業者に、「これが最期の研ぎです」または「もう研げません」と言われる時が来るので、そこまで使ったらどんなに気に入っていても処分します。
鋏は、研いだら削れていくので、繰り返し研いでいくと、いつか刃が一回り小さくなって、鋏のかみ合わせがおかしくなる時が必ず来ます。永遠に使い続けられる道具ではありません。
しかし、趣味で使う程度では、「研ぎの限界」には、滅多に到達しませんので、花鋏一丁で、一生使える人もいると思います。
これは、どの鋏でも共通のことです。
花鋏を、長く大事に使いたければ、上に書いたような「濡れたまましまわない」と同じほど大切なこととして、
「すごく固いものを無理やり切らない」
ということがあります。
一番よくやりがちなのが、「ワイヤーを切る」行為です。
生けている最中に、ワイヤーが必要になったときに、ワイヤーを切るための別の道具を出してくるのがめんどくさいという理由で、「ちょっとなら大丈夫だろう」と自分に言い訳しながら、つい花鋏でワイヤーを切ってしまう、という人は結構います。鋏を長く使いたいのであれば、これは避けてください。ワイヤーを切るなら、「これを切ったら鋏がダメになる」と思って切ってください。
致し方なく花鋏でワイヤーを切るなら(生け込みに行って、ワイヤーを切る道具を持ってきてないことに気付いたような場合)、刃先ではなく、せめて刃の奥の方で切ってください。
刃の奥の、深い方で切れば、刃先だけは傷めずに済みます。(でも、最後の手段と考えてください。ワイヤーを切ること自体が推奨できません)
はなはだしく固いものは、ワイヤーでなくても切らない方が良いです。乾いてカチカチのツツジの枝や、太い流木、プラスチック等々、刃が全然入らないな、全く切れないな、と思ったら、それは刃に大きな負担をかけています。