まったくの素人の方が、見よう見まねで剣山に生けると、とても高確率で、本当にただ挿しただけの棒立ち生け花が出来上がります。
この記事では、誰にでもできる範囲で、「いかにも素人くさい棒立ち生け花」に陥らずに生ける方法を紹介したいと思います。
管理人が、ほぼ成り行きで生けた花を、「どうして、こう生けたのか」という簡単な解説付きで紹介いたします。「成り行き」なので、要するに「なんとなく」でここまで生けられる、というところを見ていただきたいと思います。
この記事で紹介されている生け方を、すべて覚える必要はありません。自分でもできそうなところだけを、真似してみてください。
難しい技法は、いっさい使いません。小学生でもできるレベルを目指してみました!
まずは、上で書いている「素人くさい棒立ち生け花」の実例を出してみましょう。これは、私自身が「素人棒立ち風」に生けてみたものなので、真の素人さんの棒立ちよりも、少しはマシかもしれません。
↓「素人棒立ち風生け花」とは、下のようなものです。
人によっては、パッと見て「全然大丈夫な生け花では?」と言うかもしれません。でも、よく見てください。花は全部ほぼ垂直に立ち、長いものは長いままです。要するに、花屋が紙に包んできた花を、ほとんど何もしないでまっすぐ剣山に挿したのが、上の画像の生け方なのです。花材は、鋏を入れずに使っているので、花器に対してやたら長大ないけばなになっています。
私は、剣山に花を挿し慣れているので、これでも花の足元が揃っていて、そのために「壊滅的なダメ生け花」をややまぬがれかけています。上と同じ形でも、なれない人が足をゴチャゴチャに挿すと、
「ああ、下手な人が挿したんだな」
ということが、素人にも伝わります。
これが、駄目な例である「素人棒立ち風生け花」です。
以下の項では、
「ただ、挿しただけではなく、ちゃんと『生けた』ものです」
と、人に感じさせるような生け方を、上と同じ花材で、できるだけ簡単に、誰でもできるようにやってみようと思います。
ここでは、家庭や会社、学校、各種施設などで、生け花用の器として良く出てきそうなものでやってみようと思います。
花器は、平らな水盤か、すり鉢状のもの、それに剣山が1個、というパターンが多そうです。ここでは平らな丸水盤を使ってみます。
もしも、剣山を選べる状況があるなら、なるべく大きい剣山を確保しましょう。こちらの記事:剣山の使い方 にも書いているのですが、小さい剣山だと、植物が刺さったままコロンとひっくり返り、全然留め具になってくれないことがあります。未経験の人が使うなら、何があっても倒れない剣山を選ぶほうが安全です。
また、剣山が複数あるなら、「とりあえず二つは確保」することをお勧めします。2つ確保する理由は、剣山の使い方 にも書いているように、「一つに花を挿し、もう一つは重石にする」ためです。
剣山の位置ですが、この記事では真ん中に置いて話を進めます。
本当は、剣山の位置など、自分の好きなところに置けば良いのです。でも、何も分からない素人の人が「好きな場所へどうぞ」と言われても困るだろうと思い、「とりあえず、真ん中置き」にしてみました。
もし、「真ん中はイヤ」と思ったら、自分の好みの場所へ置いてください。ちなみに、私個人の好みだと、とりあえず左手前あたりにおきたいところです。(草月流の一番基本の場所なので)
剣山は、場所を後から変えてもいいので、置き場所にそんなに神経質になることはありません。いけばな経験者でもよくやる方法なのですが、左端に置いていた剣山を、右端に移動させてみたらその方がカッコよかった、ということもあるのです。なので、真ん中置きで生け始めて、最後に器の中で移動させてみて、一番カッコいいところを探しても良いのです。
また、剣山の置き方としては、上の画像でそうしているように、「長方形剣山を使うなら、縦長置き」を当サイトは推奨します。横長置きにすると、足元がだらしなく広がってしまうことがあるからです。
縦置きにすると、花を挿す部分の幅が狭いので、自然と「キュッ」と引き締まって見えます。
今回の花は、たまたま花屋さんから提供花材としてもらっていた三種類一組のセットを使うことにします。内容は、
花屋さんが組んでくる花は、基本的には、
「この組み合わせが生けやすいだろう」
「これだけあれば十分形になるだろう」
ということを考えてセットされています。上記の三種類の花材も、
骨格を作る枝もの(キバデマリ)
メインの花(カラー)
小菊(隙間や根本を埋められる小花)
が揃っていて、形にしやすい組み合わせでした。
花屋さんに組まれたセットには、「これが輪郭用」という花材があるものです。たいてい、枝や葉っぱが「輪郭用」です。この記事で扱う花で言うと、キバデマリがそれです。
花ものだけだった場合には、どれが輪郭用なのか素人の方には見極めが難しいかもしれませんが、大雑把に言うと、
「線の要素があるもの」
「面の要素があるもの」
が輪郭にしやすいです。もしも分からなかったら、「この花が一番リッパだ」と思うものをとりあえず輪郭用として作業を進めましょう。
今回の花材には「輪郭用」のキバデマリがありますので、まずはキバデマリから生けていきます。
キバデマリの枝の中で、一番これがリッパだと思う一本を取り、器にちょうどいいくらいの長さに切ります。私は、感覚で切ってしまうのですが、どれくらいか分からない人は、「器の直径の2倍から3倍の間」で切ってみると大体収まりが良いです。(後々失敗して切りなおすかもしれないと思う人は、長さを確保する意味で、三倍で切っておきましょう)
切った枝は、ほぼ垂直に剣山に立ててみましょう。(剣山に挿し方が分からなかったら、こちらを参考に→枝を剣山に挿すときには)
これを、メインの枝とします。
一度挿したら、「垂直じゃないな」と思っても、挿しなおししなくていいです。上の画像の私の挿した枝も、全然垂直ではありません。少しくらい傾いているほうが生け花らしく見えたりもするので、最初に挿したそのままでいいです。
挿しなおしすると、枝の挿したところがグズグズになるし、時間も余計にかかるし、何より「迷い」が発生する元になります。
1本挿せたら、二本目も挿しましょう。どこに挿してもいいですが、1本目の枝はメインですので、二番手はメインよりも目立たせないように、最初に挿した枝よりも短く切って挿します。
左に傾いた枝を1本足しました。
なぜ左に出したのか、ここでは「なんとなく」の意識でしか生けていないので、私本人にもあまり自覚がありませんが、メインの枝も左に流れているので、「だったら、左の流れに乗ろうか」くらいの気持ちで挿したように思います。
メインの花は、大きさから見ても小菊よりカラーでしょう。なので、まずカラーを1本入れることにします。
メインの枝を真ん中に挿したように、メインの花も真ん中に挿しました。
真ん中に挿す理由は、「とにかく中央に視線が集まるようにしておくと、素人でも結構乗り切れる」からです。真ん中がぱっくり空いていると、「スカスカな弱い花」という印象になり、
「安っぽい」
「花を挿し忘れている?」
などと感じさせる原因になります。
メインの花は、メインの枝よりも短くしておきましょう。メインの枝は「輪郭」を作っているのですから、輪郭から中身が飛び出さないほうが良いです。
今回は、カラーが二本あるので、二本目のカラーも、続いて挿しました。
二本目のカラーも、真ん中あたりに入れて、中央に視線を集める作戦を重ねます。
最初に挿したカラーは、上にすくっと立っているので、花の顔が正面を向いていません。なので、二本目のカラーは、少し花の顔を正面に向けました。こうすると、花と眼が合っているみたいで、ますます人の視線は中央に集まります。
この時点で全体像は、なんとなく「優しく上に開いている形」という方向性ができあがってきつつあります。その方向に、まだ挿していない材料たちを全部合わせていくことにします。
「優しく上に開いている形」を、残った花材を使って補強していきます。
まだ手付かずで残っている花材は、小菊だけです。小菊は、本数でいうと二本しかなく、そのまま一本ずつ入れると、「二箇所にしか入れられない」ことになります。
しかし、上の項の画像をご覧ください。水盤の中に開いている場所は大きく、二本挿して終わりにしてしまうと、埋め切れなかった部分がたくさん残ってしまいます。
そこで、小菊の本数を人工的に増やします。小菊には、枝分かれがたくさんあるので、枝ごとに分解すれば、本数を大幅に増やすことができます。
要するに、下の画像の赤線の部分で枝をカットすると……
下のように、5本に切り分けることができます。
もう一本の小菊も同様に分解します。もちろん、「本数」は増えても、全体の嵩は増えてはいません。要するに、大きい塊だったものを、小回りがきくように形を変えたのです。その小菊を、がら空きな部分に入れようと思います。がら空きな部分とは、下の画像の、赤丸の部分です。
要するに、カラーの花の下辺りと、カラーの左右です。このあたりを埋めれば、ほぼ完成です。
下のように、埋めてみました。
↑ここで終わりにしても大丈夫だとは思いますが、実はまだキバデマリの枝が残っていますので、
右側に、少し枝を足しました。これで出来上がりとします。
一番最初に出した「素人風棒立ち生け花」と比べると、下のようになります。
左の画像より右の画像の方が、かなり「生け花らしく」見えると思います。
「生け花らしく」するためのコツを、下記に2つ紹介します。
上の項の「素人風棒立ち生け花」と、「生け花らしく生けたもの」を比べると、小菊の向きに大きな差があります。
「棒立ち生け花」の方の小菊は、下のようにささっています。
小菊が、完全に上を向いて立っています。そのため、花の真ん中の部分は見えません。
しかし、「生け花らしく」生けた方の画像では、小菊の真ん中の部分がはっきりと見えています。つまり、下のようにささっているのです。
上の画像を、横から見るとこうなっています。
↓ ↓ ↓
挿し方が、「垂直」ではなく、斜めなのです。正面から見る人の方に向くように、花が少し前のめりになっています。
棒立ち生け花の「垂直挿し」と、生け花らしく生けた「斜め挿し」を、それぞれ横から見た画像で比較してみましょう。
【垂直挿し】 | 【斜め挿し】 |
↑これくらいのことは、知っていれば簡単にできます。小菊以外の花でも、同様に斜め挿しすれば、「こっちを見てくれる花」を挿せます。
「生け花らしく」生けた方の花の足元は、下のようになっています。
このように、足が入り組んでいないようにすると、多少下手な花でも「ちゃんとして」見えます。
「足が入り組んでいるかいないか」を、図で説明しようと思います。
↓下は、「入り組んでいない足」の生け花。
対して、「入り組んでしまった足」の生け花が下の画像です。
生け花に慣れない人の挿し方には、ほとんどこのような「入り組み」が見られます。いけばなを少し経験してしまうと、足が入り組んでいるように生けるほうがかえって難しくなるのですが(現に、私には難しいから、写真ではなく図形を描いて出しているのです)、完全な素人がノープランで生けると、「入り組み」は簡単に起きてしまいます。
「入り組んだ足」は、人に「なんとなく不自然で、だらしない」と感じさせるものを持っています。これは、「専門家が見ればわかる」というレベルではなく、誰が見てもそう感じる部分です。なので、「入り組み」は、できれば意識して避けられると良いです。
入り組ませないのは、慣れれば簡単なことで、たとえば、「右方向に出す枝を、左隅にさしたりしない」程度のことで回避できます。