100均では、剣山も売っています。今、もっとも手軽に剣山を入手できる場所は、おそらく100均でしょう。
華道具屋で売っている一般的な剣山は、安くても1,000円以上します。つまり、100均剣山は、「一般的な剣山」の1/10以下の値段で売っているのです。
そんな100均剣山は、どの程度使えるのか、実用に耐えうるのか、というところを検証してみます。
(ギリギリここまでは挿せる、という画像付きです)
このサイトで過去に何度も書いているので最初に言ってしまいますが、当サイトでは、100均剣山を特に推奨していません。
今までに、
「かなり簡易的な花留めである」
「大きい枝は受け止められない」
「ほんの引っかかり程度の花留めと思うべき」
「相当小さなミニ花器になら使える」
「相当短く切った花材になら使える」
というような紹介をしてきました。要するに、本格的な道具ではないことをあらかじめ了承して使うべきものと考えています。
これは、逆に言うと、
「本格的でなくても良い場面では、役に立つこともある」
ということです。この事実は否定しません。管理人は実際に豆剣山(100均剣山と同じ程度の大きさです)を持っており、自分で使う事もあるのです。
なので、「買う価値なし」とは思っておりません。
この記事を書いている2023年の時点では、100均でもっともよく見かける剣山の大きさは、丸剣山なら直径4cm以下、角剣山でも一辺が4cm以下です。
私の記憶によれば、10年以上前は、もう少し大きい剣山を見かけたように思います。推測ですが、原材料の値段により、そのときに製造される100均剣山の大きさが変動するのでは?と思っています。
その推測通りだとすると、今後原材料の値段によっては、現在より大きめ剣山が100均で売られる可能性も無いではないですが、ここでは現状の「丸剣山なら直径4cm以下、角剣山でも一辺が4cm以下」のものを「100均剣山の大きさ」として解説していこうと思います。
この「直径、もしくは1辺が4cm以下」というのは、剣山の普通の大きさとは言いにくいです。
華道具屋に行けば、そのくらいの大きさの剣山は売っていますが、「豆剣山」の扱いで売っています。つまり、いけばな人から見ると、100均剣山は、「極小」と感じる大きさです。(でも、小さいといえども、あれを100円で買えたら安いんじゃないかとも思います)
「極小」なので、小さいなりの使い方をするべき道具だと思います。
100均剣山が、一般的な剣山と比べてどのくらい小さいのかと言いますと、たとえば丸剣山の場合、私のお稽古場(いけばな教室です)の主力として使っているものは、直系6.6cmくらいのものです。なので、直径4cmの100均剣山は、うちの主力より「2.5cmも小さい」ということになります。
6.6cmと4cm。あんまり変わらないじゃないか、と思う人もいるでしょう。しかし、モノを比べると、結構違うものだと感じていただけると思います。
下の画像は、左から、「直径4cm、5cm、6.6cm」で並んでいます。
直径6.6cmの円の面積は34.19c㎡、直径4cmの円の面積は12.46c㎡ですから、直径4cmの剣山は、直径6.6cmの剣山の半分以下の大きさなのです。
また、大きさが半分以下ということは、重さも半分以下になります(後述しますが、実際の重さは半分どころではありません)。
これでは、ツールとしての実力に大きな差ができて当然です。
小さい剣山と大きい剣山を比べた場合、「小さいのは使えないなあ」と思うのは、花を挿せる面積よりもむしろ「重さ」です。
上の大きさの項で出した3つの剣山の画像に、重さを書き込んでみますと、下のようになります。(うちにある剣山を実際に計った重さです)
大きさから考えると、230gと30gまでの差がつくはずがないのでは?と思われるかもしれません。単純に、直径だけの差を考えると、ここまでは違わないだろうと感じますが、豆剣山は、土台の厚みや、土台の材質も「豆仕様」になるので、ここまで差が出来てしまうのです。つまり、豆剣山は、「重い花材を、しっかり留めるツール」とは考えられていない道具なのです。
しかも、100均の剣山となると、30gよりももっと軽くてもおかしくありません。
上の画像の豆剣山は、一応華道具屋で買ったものなので、これでも「小さいなりにちゃんとした剣山」と言えるのです。100均の剣山が、コストを抑えることを重視して作ったものであれば、軽く、薄くをモットーに、限界まで材料費を切り詰めている可能性が高いです。
上にも書きましたが、230gの丸剣山(画像の一番右の剣山)が、私の稽古場で使っている「丸剣山の主力」となるものです。「稽古場の主力になる剣山」=「ごく普通のいけばなに使われる剣山」であり、きわめて一般的ないけばなを生けるときに、「剣山の重量は230gくらいはないとキビシイ」ということです。それはすなわち、「30g以下くらいの100均剣山では、普通サイズのいけばなに使うには軽すぎる」ということになります。
当サイトには、お正月花関連の検索で「花の生け方」「剣山に挿す方法」を探しに来るゲストが多いので、お正月花のことを特に書きますと、上の項の理由により、「100均剣山は、お正月花に使用するのはかなり難しい」と言わねばなりません。
難しいというか、実質は「無理」に近いです。松の枝が1本でも入っていたら、100均剣山はその時点で役不足になります。
その松を、ものすごく短く切るなどすれば使えないことは無いですが、一般的にイメージされるお正月花を生けるには、100均剣山は力不足のツールです。多分、100均剣山を買ってきて正月花を生け始めたら、最初の1本を挿した段階で、素人の方にも、
「ああ、これはダメだ」
と分かると思います。
もしも、どうしても100均剣山で正月花を生けるなら、「小さい」「軽い」という100均剣山の弱点を克服するために、なんらかの工夫をしなければならないと思ってください。
剣山の重さは、かなり重要なことなのです。上の項に書いた、私の教室で主力となっている直径6.6cmの剣山でも、単体では十分な重さとは言えません。
正月花は、頭の重い花材も多いので、6.6cm丸剣山でも、花材に引っ張られてひっくり返る可能性が高いです。なので、私ならば、重石用の剣山をつけて正月花を生けます。そもそも、重し用の三日月形剣山とセットになっている商品なのです。
これらのことを総合しますと、「30g程度の100均の剣山では、重量のあるお正月花材を支るのはほとんど無理」ということが分かっていただけると思います。
うちにある直径4cmの剣山に、ためしにお正月花材を挿したらどうなるか、という実験をしてみました。
上にも書いたように、うちの4cm剣山は、100均ものではありません。100均ものよりも少ししっかりしているくらいかもしれません。なので、100均の4cm剣山だったら、下の画像の結果よりも、もっと頼りない結果になる可能性があります。
4cm剣山を、こんな風に水盤の中に置きまして、
まずは、松を1本立てました。
一応立ってはいます。が、かなりぐらぐらしています。ちなみに、松の長さは60cmほどです。
ちょっと松を斜めにさしてみたら……
一瞬、うまく刺さったように見えても……
重さに持ちこたえられず、すぐに倒れてしまいました。
たった一本もまともにさせない、この剣山では無理だ、ということが明らかです。
しかし、限界が知りたくなったので、無理にどこまで挿せるかやってみました。
頑張ったら、松が三本挿せました。しかし、すごくバランスを取りながらの作業になり、もはや「いけばな」ではなく「ジェンガ」の気分。少しでも重心がずれたら倒れるレベルです。
でもさらに頑張って千両も入れてみました。
一応立っていますが、少しでも横に出すとバランスを失って倒れます。これなら、花瓶にそのまま挿すほうがよほど良いです。
でも、最後の花ものまで入れてみますと……
ついに倒れました。
というように、正月花材を100均剣山レベルの花留めを使って生けるのは、はなはだ困難、というのが結論です。
私は、100均の剣山を「悪いツールだ」とは思いません。ただ、大きい剣山と同じことを、小さな100均剣山にさせるのは無理がある、と言っているだけです。
小さな道具は、小さなところで活躍させたら良いのです。ミニ花器や、一輪挿しの底に仕込むなどすると、素人さんには便利に使えるかと思います。本来、豆剣山は、「ほんのちょっとしたところ」に入れるべき花留めです。
たとえば、当サイトで紹介したものの中にも、直径4cmの剣山を使っているものはあるのです。実際の使用画像は、以下のようなものです。
↑これらはすべて、手のひらに乗る大きさの飾り物です。「小さな場所で、ちょっと花材をまとめて欲しい」というときに、豆剣山は本来の力を発揮してくれます。
この記事を読んできてくださった方には、「100均剣山は、世のスタンダードな剣山に、大きさでは遠く及ばない」とわかっていただけたかと思います。いけばなの経験のある人からすると、100均剣山は「すごく小さい剣山」なのです。小さすぎて、「普通のいけばな」には使いにくいサイズです。
つまり、素人さんが「花を生ける可能性があるかもしれないから、剣山を一つくらい買っておこう」と考えた場合、100均剣山は、あまりオススメできません。100均剣山にあわせた、すごく小さい花だけ生けるなら良いのですが、長さ30cmを超える花材をイメージしているなら、もっと大きい剣山でないと、上の項のように、ジェンガをやっている気分になってしまいます。
では、どのくらいの大きさの剣山が素人にも扱いやすいのかといいますと、丸剣山なら直径7~9cmくらい、長方形の剣山なら、短いほうの辺が6cmを超えるものがいいです。ショップに「大・中・小」の剣山があったら、中以上にしておくのが安全です。
しかし、そのくらいの大きさの剣山は、1000円を越えるお値段になり、年に一回生けるか生けないか、くらいの使用頻度だと、非常にもったいなく感じるお値段帯になります。そうなると、
「100均でいいじゃないか」
という気持ちになるのもよく分かります。分かりますが、100円剣山は、所詮100円です。100円程度のお勤めしかできません!
100円のお値段なりのツールだと理解して100均剣山を買うか、
一生使えば元は取れると考えて1000円超の剣山を買うか、
ご自身にふさわしいほうを選んでください。